おかんアート――それは時間を持て余した中高年が、情熱をかたむける工作・手芸作品のこと。牛乳パックのペン立てや、軍手で作ったぬいぐるみ、チラシを編んだカゴなど、実家に帰るたびに増殖する手作り作品を、誰もが一度は目にしたことがあるでしょう。センスはないが、愛情がたっぷりとつまった、おかんアートに、頭を悩ませている友人の話を聞いてください。
初孫誕生で大フィーバーの義親

良好だった友人Aと義親の関係が、一転したのは、子どもの誕生がきっかけでした。
出産以前は、お互いを気遣い、ほどよい距離感を保ちながらお付き合いができていたのですが、待望の初孫の誕生にフィーバーしてしまった義親。
義親は、陣痛の真っ最中に病院を訪れて、何時間も居座ったり、出産直後に赤ちゃんを抱いて、離さなかったりと、産後ナイーブなAの地雷を踏みまくり。退院後も、毎日のように「今日の孫ちゃんの様子はどうですか?写真楽しみにしています」と、写真や動画を送ってこいと言うので、すっかり義親が苦手になってしまいました。

初めての義実家訪問、目を疑う光景が…

さらに赤ちゃんが生後3カ月を過ぎると、いつ義親の家に連れてくるのかと催促の嵐。なにかと理由をつけて断り続けていましたが、義親から「孫の顔を見れないなら、そちらに泊まり込みで遊びに行く!せっかくだから1週間くらい滞在したい」と言われて、赤ちゃんが生後半年になる頃、重い腰をあげて義実家を訪問することになったのです。
訪問当日、車で義実家に向かい、玄関が見えた途端、Aは思わず声をあげてしまいました。
「え?なにあれ?」玄関先に大きな白い布が垂れ下がっています。よく見ると、それは古いシーツに、手書きで色とりどりの文字が躍る、横断幕でした。
「大歓迎!!孫ちゃん!じいじばあば家へようこそ!」
通りかかった人達は「わ!こんなところに横断幕!」とクスクス笑っています。Aは恥ずかしさのあまり、旦那に「あの横断幕、はやく外してきて!!」と頼み、赤ちゃんを抱っこして、義実家に駆け込みました。
玄関をあけて「お義父さん〜!お義母さん〜!お邪魔します。孫ちゃん連れてきましたよー」と声をかけると、奥から、手作りのアンパンマンのお面をつけた義父が現れて、Aは腰をぬかしそうになりました。
「よく来た!よく来た〜〜!じいじが抱っこしよう!おぉーおぉー可哀想に。長旅で疲れて、泣いてるんじゃな」
アンパンマンのお面をつけたまま、義父は、Aからもぎとるように赤ちゃんを抱っこします。
突然、変なお面の人に抱かれ、赤ちゃんはパニック状態でギャン泣き。それを見て、これまた手作りのドキンちゃんのお面をつけた義母が「抱き方が悪いのよ!」と奪い取り、さらに泣き声は加速。
横断幕を回収して、小脇にかかえたAの旦那は「父さん、母さん、何してるんだよ…怯えさせるなよ…」と呆れたように呟きました。

横断幕だけではなかった

ちょうどその日は、端午の節句(こどもの日)が間近で、初節句のお祝いを義実家で行う予定でした。
義母から「孫ちゃんの大事な初節句だから、準備は任せて!」と言われていたので、立派な兜を期待していたら、床の間に飾ってあるのは、なんと段ボールで作った兜。
「横断幕はばあばの手作りで、兜はじいじの手作りなのよ」と義親は誇らしそう。
定年退職をしてから、暇を持て余した義親が、おかんアートにハマっていると小耳に挟んでいましたが、まさか初節句の兜まで自作するとは想像もしていませんでした。段ボールの兜は、赤ちゃんが口に入れてしまい、フニャフニャに!初節句のお祝いどころではありません。
それから何度か義実家に訪問しましたが、そのたびに、横断幕がお出迎え。牛乳パックのロボットや、手ぬぐいを再利用したぬいぐるみ、段ボールで作ったすべり台など、自作オモチャを準備して、「持って帰りなさい」と押し付けてくるのです。捨てるに捨てられないおかんアート作品に、Aの家はどんどんと占拠されて、すっかり困ってしまいました。

自宅でのパーティーにも横断幕が!

「義実家に行くから、義親のペースになっちゃうんだ!」失敗できない子どもの1才の誕生日は、自宅でパーティーの準備をして、義親を招くことにしたそうです。
その話を聞き、「それならきっと、オシャレで素敵なパーティーになったんじゃない?」と尋ねると、友人は苦笑しながら誕生日の記念写真を見せてくれました。オシャレなガーランドや誕生日の飾りにまじって、「孫ちゃんお誕生日おめでとう!」と義親お手製の横断幕がまたもや!
「最初は、嫌でたまらなかった義親のおかんアートだけど、段々と愛着がわいてきたよ」とAは、まんざらでもない表情で笑いながら言いました。
(ファンファン福岡公式ライター/T)





