福岡の師走を彩る風物詩「立川志の輔・立川生志 兄弟会」が、今年も博多座(福岡市博多区)で12月19日(金)に開かれます。“博多座で落語”は今でこそ珍しくないものの、その先駆けとなったのがこの会。福岡県出身の生志さんの熱い思いから実現した公演は、今年15回目の節目を迎えます。兄弟子の志の輔さんにとっても、この会は特別な存在とか。昨年は社団法人落語立川流の代表に就任して多忙を極める中、この日に照準を合わせて乗り込んで来ます。掛け合いのような二人そろっての口上も楽しく、落語はそれぞれ一席約50分、たっぷりと。毎年即日チケット完売の理由をぜひ体感してください。会を前に生志さんに話を聞きました。
博多座には特別な“気”がある。会場やお客さんに見合った芸をお見せします

―2011年にスタートした兄弟会が15回の節目を迎えられます。おめでとうございます。
ありがとうございます。ここまで続けてこられたのは、やはり感慨深いですね。
―博多座では2012年から続けて開催されています。博多座で落語会を開く意義とは。
博多座というのは、福岡の人にとってある意味ブランドといいますか。博多座に行くのは“お出かけ”だと思うんです、ちょっとおしゃれして出向く場所というような。だから、それに見合ったものをお見せしなければ、という気持ちです。志の輔も「全国いろんな舞台に上がるけれど、博多座という劇場が持つ“気”は特別だ」と言います。歌舞伎のために作られた空間というのもありますが、博多座の“気”はよそとは違う。舞台にいて3階席までが全く遠く感じないんですよ。芝居小屋の黄金比が素晴らしいんだと思いますね。その素晴らしさをお客さんにも伝えたいなと思っています。
―確かに見ている側も集中できる空間です。
舞台上からも、その様子が分かります。しかも博多座としての歴史を積み重ね、たくさんの人の“気”が劇場を育ててきた、そんな空気が感じられます。

―そもそも博多座で開こうと思われたきっかけは。
僕が福岡県(筑紫野市)出身ということもあり、博多座で落語会ができたら、ありがたく誇らしいことだと考えました。実は2008年の真打ち披露を博多座でできないかとお願いしたんですが、当時は落語会の前例がなくてダメだったんです。その後、博多座さんから(12月の)「市民檜舞台」で出てほしいとお声がかかり、最初は談志師匠との親子会でした。
志の輔師匠の凄みを感じるように。僕にとって意味深い会

―兄弟会の中で印象的だった回などがあれば。
2019年の第9回ですね。この回から博多座さんの主催になったことで、それ以前より客層がぐんと広くなりました。歌舞伎やミュージカルなどを見ていた人で「博多座で落語があるなら行ってみよう」という方が結構いらっしゃったんだと思います。口上の時からそれまでとは雰囲気が違って…。
―普段、落語をあまり聞かない方も多く足を運んでいたのですね。
そんな中、僕は予定していた「寝床」という演目をそのままやりました。「寝床」というのは(内容が)浄瑠璃がどうのとか、義太夫とか。ちょっと分かりにくかったようで案の定、反応がよくなかった。一方、志の輔はお客さんを見て、予定とは違う「八五郎出世」に変え、笑わせて泣かせて。やっぱりすごいなと思いましたね。
―ということは事前にお互いにネタ出しをしておくのですね。
そうです。トリを取る人が何をやるかが大事で、その日のお客さんを責任持って帰す役割がトリなので、(トリのネタに)ぶつからないようにしますね。志の輔師匠が「お前何やるんだ?」って言ってくれて「これをやりたいと思っています」「分かった」と話すこともあれば、僕から「今回は何をやるんですか」と聞き「そうだなあ、これかな」といった具合のときも。わりと公演近くになってから打ち合わせます。でも、2019年のように、1度だけその日に変わることもありました(笑)。
―当初からこれまでで、ご自身に心境の変化などありますか。
志の輔の偉大さを感じるようになりました。これ、よいしょじゃなくて。自分が年を重ねていろいろ怖さが分かるようになってきて、若い頃は「よし、やってやるぞ」みたいな気持ちで落語をやれていたのが、まあ今もそれは根底にはあるものの、それよりも「皆さんにそれなりのものをお見せしなければ」という自分へのプレッシャーが出てきた。そうすると、百戦錬磨の志の輔の凄(すご)さというのを本当の意味で感じられて。僕自身の落語家としての成長だろうなとも思いますが。ですから年1回のこの会は、僕にとって、とても意味のある機会です。
―志の輔師匠は、あまり二人会などはされていませんね。
基本的には独演会です。それをこの会を15年続けてくれているのは、本当にありがたい先輩です。チラシには「兄弟対決」とうたっていますが、負けないぞというより、最近は畏怖の念を抱くようになっています。
面白くて深い落語。口上は何が飛び出すかお楽しみに

―お客さんには変化はありますか。
近年は本当に期待してもらっているんだな、楽しみにしてくれているんだなと感じます。「今年も行くよ」と声をかけてもらったり、この会ならでは。いつも即日完売しているのも、ありがたいことです。ただ実は、当日に補助席販売も出ているんですよ。
―15回目ならではの趣向がありますか。今年のトリは生志師匠の予定ですね。
特別な趣向はせずに今まで通りだと思いますが、口上では「15回」はテーマになると思います。ただし、口上は事前打ち合わせもなくぶっつけ本番なので、どうなるか、何が飛び出すかはお楽しみに。
―毎回、お二人の掛け合いも楽しみです。
(志の輔師匠の)エンジンがかかるのが遅いときもあって、こっちが“よいしょ”しながら気分を乗せていったりね。一昨年なんか急にサッカーの話を始めたこともあって、あれは驚きましたね。別にサッカー好きじゃないでしょと(笑)。
―会が終わったら福岡で打ち上げを?
はい、僕がお店の予約から支払いまで(笑)。この頃は志の輔のリクエストでフグと決まっていまして。アラ(クエ)にした年もあったんですが「やっぱりフグがいいな」と志の輔が言うので(笑)。
―読者にメッセージを。
完売必至のチケットなので、毎年来てくださっている皆さん、お急ぎで確保してください。落語を生で見たことのない方には「落語ってこんなに面白いんだ。こんなに深いんだ」というのを博多座という特別な空間で味わえるぜいたくな機会ですとお伝えしたいです。しかも他と比べて落語はリーズナブルに博多座が体験できます(笑)。お待ちしています!
【立川生志(たてかわ しょうし)】
1963年福岡県筑紫野市出身。福岡大卒業後、大手企業に入社するが、子どもの頃からの夢を叶えるため2年で退社。1988年立川談志に入門し、立川笑志に。1997年二ツ目昇進。2008年4月に真打昇進。名を立川生志と改める。2002年NHK新人演芸大賞ほか受賞多数。2017年福岡市文化賞受賞。テレビ「めんたいワイド」、ラジオ「立川生志 金サイト」などでも活躍。書籍「ひとりブタ~談志と生きた二十五年~」(河出書房新社)、「立川生志のニュース落語1~3」(梓書院)ほか

立川志の輔・立川生志 兄弟会
日時:12月19日(金) 16:00開演
場所:博多座(福岡市博多区下川端町2-1)
料金:全席指定 A席(1、2階)6,500円、B席(3階)5,000円
問い合わせ:博多座電話予約センター
電話:092-263-5555(10:00~17:00)
博多座「立川志の輔・立川生志 兄弟会」https://www.hakataza.co.jp/lineup/112


