ファンファン福岡に集まった福岡の子育て世代の悩みに答える「声かけで変わる!親子で育むごきげん力」。スポーツ界や教育現場でメンタルサポートを行うスポーツドクター・辻秀一先生が、親子のごきげん力を育むためのヒントをお届けします。
今回のテーマは「褒め方」。
子どものやる気を伸ばしたい、自己肯定感を育てたい。そう思って褒めているのに「これでいいのかな?」「むしろプレッシャーになっていないかな?」と悩む親御さんも多いのではないでしょうか。
子どもを苦しめる“肯定・否定”の物差し
Q: 子どものスポーツの試合や練習の後にはできるだけ、「今のプレーよかったね」とポジティブに声をかけるようにしています。でもつい「次はもっとこうしたら?」とアドバイスを加えてしまいます。褒めるだけがいいのか、何かを伝えるべきなのか悩みます。また、子どもには自己肯定感を持ってもらいたいとも思っていますが、どんな褒め方がよいのでしょうか。
辻先生 出ましたね、「自己肯定感」。僕、この言葉、大嫌いなんです(笑)。
今は“自己肯定感至上主義”で、大人たちが『自己肯定感を高めなきゃ』と自爆していますよね。
「うちの子の自己肯定感が低いから、成功体験を積ませて上げなきゃ」って言う人がいるけれど、どこまで上げればいいんでしょうか?ゴールがないから無限に上げ続けるしかない。それこそ呪縛になってしまいます。
そもそも「肯定」「否定」って、大人が勝手に作った尺度なんです。
100点は肯定できる、0点は肯定できない。優勝すれば肯定できる、負けたら肯定できない。こうやって大人が作りだす物差しに振り回されて、子どもたちはますますしんどくなっていることがあります。
だから僕は“自己肯定感はハラスメント”だと思っています。
本当に大切なのは「自己存在感」
辻先生 大人だって足りないことや未熟なことは山ほどあるのに、「全部肯定しなきゃ」と思って成功体験を積もうとする。じゃあどこまで成功すればいいのか―。
大事なのは、そんなことではありません。
本当に必要なのは「今この瞬間に、あなたらしさがある」と気づかせてあげることです。
誰かと比べる必要はない。あなたの存在そのものが素晴らしいということを伝えることが大切です。
僕はこれを「自己存在感」と呼んでいます。
「自己肯定感」には肯定か否定かの尺度があるけれど、「存在」には尺度がありません。
たとえば「命のレベルが低いから成功体験で上げなきゃ」なんて言わないでしょう。命はあるだけで十分。その子の中にあるものに光を当てる、視線を向けてあげることが大事なんです。
褒めるのは「結果」ではなく「一生懸命」

ーでは、子どもを褒めるときはどう心掛ければよいでしょうか?
辻先生 たとえば、テストで100点を取った子に「100点でお母さんうれしい」と言うのは、「結果」に対して褒めているパターンです。この場合、子どもは「100点を取らなければお母さんは喜ばない」と思ってしまうかもしれません。もし40点の答案だったら、どう言葉をかけますか?
だから、一番大事なのは「あなたは今回、一生懸命やったの?」と聞くこと。
そして「一生懸命やったなら、お母さんはいつもうれしいよ」と伝えてあげることです。
100点を取れるかどうかはコントロールできません。でも「一生懸命やる」かどうかは、本人の意思で決められます。
そうしていけば、子どもは「お母さんは結果じゃなくて、自分が一生懸命にやるという努力そのものを喜んでくれる」と感じられるようになり、子どもも一生懸命を楽しめるようになります。
結果にばかり注目して褒める必要はありません。結果を褒めてばかりだと「人に褒められるため」にやっていると、やる気が外に依存してしまうため苦しくなることもあります。
でも「自分の中で一生懸命が楽しい」と思えたら、それが生きる原動力につながるんです。
大谷翔平選手に見る、ごきげんに生きる力
辻先生 大谷翔平選手がいつもごきげんなのは、「一生懸命やることが楽しい」と教育されてきたからではないでしょうか。
ホームランを打っても、三振しても、一生懸命やれば楽しい。結果ではなく「今の自分を楽しむ」ということを教わってきたからこそ、常に自然体でいられるんだと思います。
つまり、無理に結果を褒める必要も、自己肯定感を上げる必要もありません。
子どもの「自己存在感」に目を向け、感情・好きなこと・ごきげんでいることに光を当てる。
それこそが「自分らしさ」であり、生きる力につながるのです。
多くの場合、親も学校も「指示型」に偏ってしまい、子どもは「成功しなきゃ」と追い詰められてしまいます。だから家庭くらいは「あなたはあなたでいい」「いてくれてありがとう」と言ってもらわないと、子どもは苦しいんです。
社会にはルールがあるから「行動の指示」は必要。でも、内面を育てる支援を忘れてはいけない。この両方をバランスよく行うことが重要なんです。
声かけのヒント
- 「あなたが楽しそうに頑張っているのを見て、うれしいよ」
- 「一生懸命やるって楽しいね」

辻 秀一(つじ しゅういち)
スポーツドクター、メンタルコーチ、産業医。株式会社エミネクロス代表取締役。1961年東京都生まれ。北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターでスポーツ医学を学ぶ。1999年、QOL向上を目的に株式会社エミネクロスを設立。
独自の「辻メソッド」による非認知スキルのメンタルトレーニングを展開し、オリンピアンやプロアスリート、企業、教育現場まで幅広く支援。Dialogue Sports研究所代表理事も務める。
著書に『個性を輝かせる子育て、つぶす子育て』(フォレスト出版)、『スラムダンク勝利学』(集英社インターナショナル)『自己肯定感ハラスメント』(フォレスト出版)など多数。






