明治生まれの祖母が語ってくれた、ちょっと怖くて不思議な話です。 ある親戚の男性が寝たきりになった頃から、家の中では不可解な現象が続きました。 そしてその最期は、誰もが予想できないような形で訪れることになります。
「はやく来い」と叫んだ親戚のおじさん

祖母が十二、三歳の頃、病でふせっている親戚の儀助さんを見舞うため、母とともに親戚宅を訪ねた。
儀助さんは座敷で寝ているということで、祖母と母が奥さんに様子を聞いていると、突如、部屋の奥から叫び声が聞こえた。
「……を……てくれ!」
顔色を変えた奥さんに促されて祖母も一緒に座敷へ向かうと、寝ていたはずの儀助さんが荒い息で叫んだ。
「向きを変えてくれ!」
訳も分からぬまま、祖母と奥さんで敷き布団ごと身体の向きを変えると、儀助さんは落ち着いてそのまま眠ってしまった。
奥さんは言った。 「いつも床の間に頭を向けて寝かせてるんだけど、気づくと逆向きになってて……。そんなとき、決まって儀助が叫ぶのよ」
さらに、儀助さん自身が「逆向きになると、“はやく来い、はやく来い”という声が聞こえる」と語っていたという。
祖母が家に帰って家族にこの話を伝えると、広い家なのにどうして儀助さんを他の部屋に移さないのかという疑問が出た。 すると、祖母のおじいさんは静かにこう言った。
「あそこは……いろいろあるんだ」
海に呼ばれた夜

それからしばらくして、祖母のもとに儀助さんの訃報が届いた。
「もう長くはないだろう」と皆が思っていたため驚きはなかったが、十二、三歳の祖母は母親とともに通夜に出かけた。
「この度はご愁傷さまでございます。ご回復を祈っておりましたのに、残念でなりません」
祖母の母がそう言って頭を下げると、喪主である奥さんはなぜか悲しみではなく、驚きと困惑の混じった表情を浮かべていた。
違和感を覚えながら焼香を済ませ、帰ろうとしたとき、弔問客たちのひそひそ話が耳に入った。
「病気で亡くなったんじゃないんだって?」
「海で見つかったらしいよ。舟を引き上げようとしたら、その下から」
「溺死ってこと? でも儀助さんって寝たきりだったんじゃ……」
「そのはずなんだけど、この家から海まで足跡が続いてたんだって。それで場所がすぐ分かったらしい」
「やっぱり、なにかに呼ばれたんだ……海に連れていかれたんだ」祖母はそう思ったという。
(ファンファン福岡公式ライター/チョコ太郎)


