【本当にあった怖くて不思議な話】ベランダに現れる幽霊、彼女がやり残したこととは?

小学三年生の秋、母と二人で路面電車に乗って小倉からの帰り道。赤く染まった夕暮れの街並みを眺めていると、母がふと、こんなことを言いました。

「昔、あの辺りの景色を見たときにね…ちょっと怖くて、不思議な体験をしたことがあるの」

若き日の母が出会った、毎日ベランダに立ち続ける“誰か”。
その正体を追ううちに見えてきたのは、ある未練と、ひとつのワンピースでした。これは、母が静かに語ってくれた、忘れられない実話です。

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ベランダに立つ女の人

写真AC

小学3年生の秋だったと思う。母と二人で小倉まで出かけた。
行きは時間の都合で国鉄(現JR)を使ったが、帰りは「街の風景を見ながら帰ろう」と母が路面電車を選んだ。

夕陽に真っ赤に染まった街や工場を眺めながら、「夢の中を走ってるみたいだな」と思っていると、母がぽつりとつぶやいた。

「昔、これと同じ風景を見たことがあるよ。ちょっと不思議な話だけど…聞く?」
「もち!」

母は笑いながら頷いて、話し始めた。

母が語り始めた話とは…

私(母)が東京のドレメ(ドレスメーカー女学院)に入学した春、十八歳だったかな。
上野の下宿から、品川にある学校まで毎日山手線で通っていたの。

田舎から出てきたばかりで、窓から見える東京の街が珍しくて、毎日ずっと車窓を眺めていた。
そんなある日、ふと気づいたの。

あるアパートの横を通ると、毎回同じ女性がベランダに立っている。
朝も夜も、雨でも風でも、いつも同じ場所に。

電車の中でアパートを指さしても…

不思議に思って、学校で友達に話したら、みんな面白がって見に行こうってことになった。

電車の中でアパートを指さして、「ほら、あそこ!」と教えたけど、
「どこどこ?」「誰もいないじゃん」「冗談でしょ〜!」と笑われて終わった。

「やっぱり私の勘違いだったのかな…」と思いながら一人になったとき、
後ろから肩をぽんぽん、と叩かれた。

物静かなクラスメイトの早田さんだった。

「…私も、毎日見てる」
「ホント!?  ああ、よかった…! 私、ノイローゼなのかなって悩んじゃった」
「実は気になってたの。ねえ、今度のお休みに行ってみない?」
「わあ、探検隊みたい! 行こう行こう!」

探検隊みたいにアパートへ

写真AC

日曜日、二人で出かけた。

最寄り駅で降り、途中でパフェを食べて寄り道しながらも、昼過ぎには目的のアパートにたどり着いた。
当時としては珍しい4階建ての建物だった。

例の部屋まで階段で上り、「山野」と表札の出ている部屋の前に立った。
早田さんが迷わずインターホンを押した。

……応答はなかった。

「帰ろうか」と話していたそのとき、四、五十代くらいの女性が階段を上がってきた。

ワンピースに込められた想い

ここまで来たら腹をくくるしかない。
私たちはこれまでの経緯を正直に話した。

女性は静かに話を聞き、鍵を取り出すとドアを開けて、私たちを中に招き入れた。

「ここには娘が住んでいたのですが…。一年前に急逝しました。あなたたちが見たという女性は、きっと娘の…」

「何か、心残りがあるのでは?」と早田さんが尋ねた。

「ドレスメーカー女学院を卒業して、念願の服飾の仕事に就いた矢先に心臓発作で…。無念だったと思います」

「私たち、その学校の後輩なんです。少し部屋の中を見せていただけませんか?」

「ええ。寂しくてそのままにしていますが、いずれは整理しなければいけない物です。どうぞ」

部屋の中を探していると、私は押し入れの奥で紙包みを見つけた。
そこには「母さんのワンピース」と書かれたメモ。

中には、鮮やかな赤にヒマワリ柄の布が入っていた。

「これがきっと、心残りです! 娘さんの代わりに、服を縫わせてください」
早田さんの申し出に、山野さんは驚き、そして涙ぐみながらうなずいた。

その場で採寸をし、生地を持ち帰った私たちは、二人で手分けして縫い進めた。
2週間後、ワンピースは完成した。

服を届けると、山野さんはすぐに袖を通してみせた。
サイズはぴったりだった。

「ありがとうございます…きっと娘も、喜んでいます」
そう言って、目頭を押さえながら笑った。

「わあ、街が赤い!」
「ホントだ、まるであのワンピースみたい」

赤く染まる街を眺めながら、電車に揺られて帰ったの。
今日みたいな夕焼けの中を。

その日から、もうあのベランダに女性の姿が現れることはなかった。
…天国に行けたのかしら。

その後の写真には…

写真AC

母が亡くなったあと、遺品を整理していると、古い白黒写真が出てきた。

若き日の母が、二人の女性と並んで写っている。
裏には「早田さん」「山野さん」と名前が書いてあった。

真ん中の女性は、花柄のワンピースを着ている。

白黒写真だったが、鮮やかな赤と黄色いヒマワリが見えた。

(ファンファン福岡公式ライター・チョコ太郎)
※本記事は、ファンファン福岡に掲載された公式ライター・チョコ太郎の連載「祖母が語った不思議な話」で過去掲載された記事を、再構成・再編集したものです。

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

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