【語り継がれた怪談】玄関に吊るされた藁紐-「くちなわ様がおらるるか!」

実家の玄関に吊るされた30センチほどの藁紐(わらひも)。

「厄よけだよ」と言う祖母に、小学校に上がったばかりの私は素朴な疑問を抱きました。「ずっと下げているの?」

「私のお母さんが始めたから、だいぶ長いね…」そう答えた祖母の表情が、ふと遠くを見つめるように変わりました。

「その話、聞くかい?」明治生まれの祖母が語り始めたのは、ひいおばあさまが5歳の秋に体験した、身の毛もよだつ出来事でした。

目次

玄関の藁紐

 実家の玄関には30cmくらいの藁紐(わらひも)が輪にして吊るしてある。
 それに気が付いたのは、小学校に上がった春だった。

 祖母の袖を引いて玄関まで連れて行き、あれは何かと尋ねた。
 「ああ、厄よけ… 悪いものが入って来ないおまじないだよ」
 「ずっと下げているの?」
 「私のお母さんが始めたからだいぶ長いね。その話、聞くかい?」
 「うん」

 そう答えると祖母はソファに腰掛けたので、隣りに座った。

藁の草履

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 祖母の母が五つの秋、友達と一緒に村を歩きながら落ちている藁を拾ってまわった。
 子どもながらに、集めた藁で「草履」を作るためだった。

 近くの納屋で編み上げると少しばかり余ったので藁紐を作り、帯に挟んでおいた。 
 一番早く編み上げたのが嬉しくて、新しい草履をつっかけると外に出た。

近づく何か

 履き心地を確かめるために山道を進んで行くと、いままで来たことのない場所に出た。
 そこには打ち捨てられた小屋がぽつんとあるだけだった。

 心細くなり帰ろうとしたそのとき、急に空が曇った。
 そよとも吹いていなかった風がごうごうとなり始めた。
 それに混じって草を倒し、木々の枝を折りながら何かが近づいてくる!

 全身が危険を告げた。
 とっさに小屋に飛び込むと息を殺して外をうかがった。

くちなわ様がおらるるか

 ぞろりぞろりと足音が大きくなった。
 「入ってくる!」そう思ったとき
 「くちなわ様がおらるるか」と笑うような女の声が聞こえ、ふっと気配が消えた。

 それからしばらく待っておそるおそる外に出た。
 そこには誰もおらず、ただ藁紐だけが落ちていた。

くちなわ

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 「お母さんは逃げ込むときに落としたんだね。それが守ってくれたのさ」
 「くちなわって何?」

 「蛇のこと。怖いものには怖いもので厄を祓(はら)うという昔からある方法でね。それでずっとこうやってここに下げているの。毎年新しいものに交換はしているけどね」

 そう言うと祖母は藁紐に手を合わせた。
 真似して手を合わせた。

(ファンファン福岡公式ライター/チョコ太郎)


※本記事は、ファンファン福岡に掲載された公式ライター・チョコ太郎の『續・祖母が語った不思議な話:その拾漆(17)「くちなわ様」』を基に、内容を再構成・リライトした怪談記事です。明治生まれの祖母から語り継がれた体験を題材としています。

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

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