幼い息子を連れて、ピカピカのはずの義実家の新居へ。しかし、そこで私たちを待っていたのは、義母の独特なマイルールでした。悪気のない善意が、時に子育て中の親を追い詰めることもあると知った忘れられない3日間の記録です。
新居へようこそ

長男が生まれてまもなく、義実家は広い庭付きの日本家屋から、バリアフリーのコンパクトな新居へと引っ越しました。「使っていない部屋もあるし、せっかくだから泊まって!」と義母が勧めてくれたこともあり、私たちはその申し出をありがたく受けることに。とはいえ、義実家が遠方なこともあり、実際に帰省できたのは、引っ越しから1年近く経った頃でした。
渋滞も重なり、8時間以上かけてようやく到着した頃には、すっかり疲れ切っていました。車から降りてほっとしたのも束の間、玄関を開けると、そこはたくさんの物で溢れかえっていました。足元には靴や傘が散乱し、靴箱の上には謎の置物と書類の山。
さらに床には、中身の分からない段ボールやビニール袋が所狭しと積み上げられていたのです。壁紙や床はピカピカで、確かに新築そのもの。しかし、そこに漂っていたのは、想像をはるかに超える生活感でした。
思ってたんと違う!

リビングに通されて、さらに驚きました。床には棚から溢れた物が並べられ、テーブルの上は調味料や文房具、書類がごちゃ混ぜの状態。椅子やソファにも、衣類やタオルが山のようにかけられていました。
「なかなか片付けが進まなくてね〜」と義母は私に笑いかけました。考えてみれば、20年以上住んだ広い家からの引っ越しです。荷物の量も想像を絶するものだったでしょう。その上、義母はパートで働きながら、体の不自由な義父の介護もしています。
引っ越しから1年近く経っているとはいえ、片付けにまで手が回らないのも無理はないと、頭では理解できました。しかし、その“無理もない”空間で、これから3日間も過ごさなければならない。そう思うと、「なぜホテルを取らなかったのか」というこみ上げる後悔と絶望的な戸惑いに、私はただ押しつぶされそうでした。
謎の「タオルロード」

「ここを使ってね」と案内された部屋のドアを開けると、まず部屋の4分の1を占める段ボールが目に飛び込んできました。義母は
「少し段ボールがあるけど、3人が寝るスペースは十分にあるから!」と笑顔で振り返ります。
ぎこちなく笑い返した私の視線の先には、さらに不思議な光景が広がっていました。ドアからベランダまで、床に大量のタオルが一直線に並べられていたのです。
「これ、何ですか…?」恐る恐る尋ねる私に、義母は得意げに答えました。
「ああ、これ? 雨上がりに洗濯物を干すと、サンダルが濡れているでしょ。そのたびに濡れた足を拭くのは面倒じゃない? でも、こうしてタオルを敷いておけば、いちいち拭かなくても、この上を歩くだけで足の裏がきれいになるのよ! 床も汚れないし、一石二鳥でしょ!」
なるほど、言いたいことは分かる。分かるが、しかし! 理解が追いつかない私に、義母はさらに衝撃の一言を放ちました。
「あ、布団ね、このタオルの上に敷いちゃっていいから!」…え? 床に広がる、古びて色あせた大量のタオル。そして、微かに漂うカビのにおい。私はその場で固まりました。義母が出て行くと、私は瞬時にすべてのタオルを回収し、ウェットティッシュで床を何度も拭きました。
安息なき恐怖の帰省

義実家の新居はとにかくどこもかしこも物でぎゅうぎゅうでした。清潔なのか怪しいタオル、どれが使用済みかわからないコップ、うっすらと埃をかぶったぬいぐるみ。そんな空間に好奇心のかたまりである長男がヨチヨチと歩き回り 、あらゆるものに手を伸ばします。
息子が少しでも口をもぐもぐさせようものなら即座に口内チェック、何かを掴めばすかさずウェットティッシュ。片時も気の休まらない滞在でした。もちろん、義両親に悪気はなく、新居でゆっくり過ごして欲しいという善意も痛いほど伝わってきます。
でも、その善意が時には大きな負担になるのだと、身をもって学んだ恐怖の帰省でした。こうして悪夢の3日間は終わり、再び8時間の帰路につきました。見慣れた玄関の、“何もない床”を踏みしめた瞬間、心から安堵のため息がもれました。
(ファンファン福岡公式ライター/さち)


