私には、中学生の子どもが2人います。これは、下の子が小学6年生の夏休みに、楽しいはずのイベントで体験した、苦い思い出です。
夏の恒例イベント
子どもたちの通っていた小学校には、登校班ごとに夏休みイベントを開く伝統がありました。6年生とその保護者が計画し、参加できる保護者も協力しての思い出作り。最近は送迎や費用の負担を考慮し、近場のレクリエーションが定番です。
その年は、自転車で行ける距離の河原での川遊び＆バーベキュー。当日は晴天。川では子どもたちの歓声が飛び交い、みんな和気あいあい。「今年もいい思い出ができそうだな」と、嬉しく思っていました。
ちょっとした違和感と、広がる不安
買い出しから戻ったママたちから不穏なつぶやきが聞こえます。
「パパが好きだからって、Aさんが勝手にビールやお肉の種類を決めちゃって… ビールのセレクトは独特だし、お肉もホルモンがいいって。食べるのは子どもなのに、何か偏りすぎなんだよね…」
「えっ、何で？ Aパパは来ないって言ってなかった？」
「私もそう聞いてたんだけど…」
「Aパパ」は地域の少年野球チームで「俺様コーチ」として知られる人物。声が大きく威圧的で、保護者の間でも扱いにくい存在として有名でした。その日はAママだけが参加と聞いていたので、私も内心ホッとしていたのですが、先ほどの会話を聞いて徐々に不安になってきました。なんとなく胸に広がる不安。そして、その不安は的中することになってしまったのです。
川遊びも終盤、そろそろ子どもたちを上がらせようとしていたそのとき、
「おーい、競争しろ！ お前ら、まだ泳げるよな！」…来た。Aパパが、来てしまった。一段高い土手に腰を下ろし、大声を張り上げます。
さっきまでの歓声がウソのように、河原から笑い声が消えました。
「寒い…」と誰かがつぶやいたのを合図に、一斉に川から上がる子どもたち。笑顔も会話も消えてバスタオルにくるまる子どもたちを見て「今年の思い出作りはもう無理だな」と私はため息がもれました。
笑顔が消えたバーベキューの席
「まさか会費も払っていないのに居座ったりしないよね」という期待も虚しく、バーベキューではＡパパがまるで主賓のようにお誕生日席へ。手には早速ビール、口元には満足げな笑み。
Aママはクーラーボックスを指差し、
「うちのパパはこのビールしか飲まないから、これは飲まないでね」他のパパたちは引きつったような笑顔で無言のまま、他のビールに手を伸ばします。私は思わず、ママ友と顔を見合わせるしかできませんでした。
子どもたちの楽しいイベントに水を差したくないけれど、AパパとAママの振る舞いは腹立たしく、非難の視線を送りますが2人はまったく気づきません。けれど、もっと衝撃的だったのはそのあと。焼きあがった最初のお肉は子どもたちに配られました。すると、数人の野球チームの子どもたちが、緊張の面持ちで肉を盛ったお皿を抱えて次々にAパパの前に並びます。
「お、気が利くな～」と笑って受け取るAパパの姿を見た私は、食欲が完全に失せ、気持ち悪ささえ感じました。野球チームの子どもたちが黙って食べ始め、他の子も「食べていいの？」と大人の顔色を窺いながらの静かな食事となり、楽しいバーベキューとはほど遠いものになりました。
とにかくこの場を去りたいと思ったのは私だけではなかったようで、子どもたちが食べ終えると、なんとも早いテンポで片付けが始まりました。残った食材や飲み物をさっと分け合い、みんな黙々と撤収モード。その足で、気の合う数家族が近所の家に集まり、ささやかな2次会を開きました。子どもたちも河原とは打って変わって、笑顔がはじける時間になりました。
今でも胸に残るのは…
結局「関わりたくない夫婦」認定され、Aパパの会費はみんなスルー。A家からの自発的な支払いもありませんでした。あのときの河原を見ると、一番記憶に残っているのは、川遊びを楽しむ子どもたちの笑顔やバーベキューの味ではなく、Aママの身勝手な態度と、Aパパの満足げな表情を思い出します。
子どもの楽しいイベントのはずが、空気の読めない「俺様コーチ」とそのママによって台無しになってしまった夏の出来事でした。
（ファンファン福岡公式ライター/蕗野薹子）
